続・扁桃腺手術での麻酔ミスで重度の後遺症〜(2013年8月15日)弓仲
病院側は曖昧な対応に終始したので、
納得のできない両親からの依頼で、
事態の真相を究明し、被害回復及び再発防止を図るべく、
早期に証拠保全手続によりカルテ類を入手した。
入手したカルテを検討すると、
麻酔の過程での心肺停止は、
「低換気による低酸素血症が原因、対処可能な点がもっとあったと考えられる」、
「挿管チューブの位置に問題があり、その発見が遅れたことにより低酸素血症を生じ、その結果心停止に至った」、
「挿管後にリークが多く、酸素飽和度の不安定などの状況があったのであるから、その問題を解決してから手術に臨むべきであった」
などと、
担当医らの落ち度(過失)を示唆する記載があった。
証拠保全後に、上記カルテ等の記載をもとに行った責任を追及する交渉のなかで、
病院側はその責任をみとめるに至ったので、
患児の容体の安定(症状固定)をまって、具体的損害額確定の交渉を行うことになった。
3 患児の後遺障害につき、
2012年4月に症状固定の診断書が出されている。
上記診断書によれば、
低酸素脳症による後遺障害として、四肢麻痺、運動失調、
気管切開による発語不能、
視野障害。
ADL(日常生活動作):基本的にほぼ全介助、
移動は介助者の抱っこか車椅子、
食事は経管栄養と介助によるペースト食。
排泄;おむつ、介助でトイレ併用。
脳MRIにて、全体的に萎縮、虚血性変化あり。
肩、肘、手、股、膝及び足の各関節機能に障害、
神経性膀胱による頻尿等もある。
以上の後遺障害のために、常時介護を要する状態にあって、
後遺障害1級に該当する。
4 自分の足で元気に遊び回っていた患児は、
自ら歩きまわることはもちろん、支えなしには立ち上がることさえもできないし、
重度の脳障害のために、口鼻から自力で完全には呼吸できず、
気管切開したままの状態が続いている。
食いしん坊であった患児は、今や他の家族と同じ食事はとれない。
患児は、調子が悪い時はNG(マーゲン)チューブから流動食を摂取し、
調子のよいときにはペースト食を両親の援助で経口ができるようになった。
しかし、脳障害による嚥下機能低下により、しばしば、咳き込み、
気管切開した箇所より、痰とともに食べたものが出てきたり、嘔吐してしまうこともある。
誤嚥性肺炎になったり、又は窒息するのではないかと、
食事時には、両親は、常に精神的緊張を強いられ、援助と監視の必要な状態が続いている。
5 本件医療事故の結果、患児一家の生活は一変した。
患児は、現在、学齢に達し、県立医療センター等に通院しつつ、
2012年4月より、県立特別支援学校に通っている。
しかし、医療行為が必要なために、
常に親(現実には、母親)の付添が要求され、
病院への通院も含めて、
母は、常に、患児と一緒に行動しなければならない現実がある。
気管切開をしている患児のために、やるべき医療行為がある。
そのため、患児一人での通学バス乗車や授業は認められず、
母は、学校の送り迎えと授業中の学校待機を強いられている。
医療行為を含む在宅介護を担う父母の困難は、筆舌に尽くしがたい。
母は、日常家事に加え、
患児の介護・通学・通院に明け暮れており、
睡眠時間不足も深刻で疲労困憊の極に達している。
父も、日常の勤務先での激務に加え、
夜遅く帰宅後や休日の患児の介護補助、
リハビリ介助及び患児の母の日常家事に対する援助等々で、
心も身体も休まるときがない。
一家は、現在、全員が一階リビングに布団を敷いて寝ている。
患児に対しても、両親が2人とも同じ部屋に居れば対処が早くできるからである。
しかし、患児が咳き込むと自然に目を覚まし、
様子を見、必要であるならば吸引しなければならない。
その状況にあるため、両親とも熟睡出来ない。
父も、遅い帰宅後に患児のリハビリや風呂の世話をする。
風呂場が2階にあることから、患児の入浴は、
母一人ではできないので、父母の二人がかりである。
とにかく気管切開した箇所に水が入らないようにすることに神経を使う。
特に頭を洗う時は、より神経を使う。
今は、入浴自体には少しは慣れたが、
入浴後には、体を拭いて
カニューレ(気管切開の場合に装着し、空気を通すパイプ。)
バンドを取り換える。
これもかなり神経を使うもので、病院から父母共に指導を受けた。
とにもかくにも、本件医療事故により、家族の生活は一変した。
そして何より、苦痛なのは、
兄も含む家族4人で普通の家族のように、出かけたりできないこと。
買い物すら家族そろっていけなくなった。
ようやく、患児を含め、同じ食卓に向かい、
家族4人で食事はとれるようにはなったものの、
それも、以前とは全く違う姿だ。
ペースト食を作る手間(約1時間)も大変で、
通販も試したが、本人に合わず、母が手作りしている。
ミキサー機を2台使って作るが時間も手間もかかり、
肉体的にも大変な負担で、精神的にも休まるときがない。
食事中にも、「おいしいね。」と言った会話はさけるようにして息を潜めるようにして食べ、
その間も患児の状態を気にしなければならない生活を想像されたい。
6 上述の被害の詳細を病院側に伝えつつ、
損害賠償の請求を行い、交渉を続けた結果、
要求額よりは、かなり減額されたものの、患児の将来の介護費用を含め、
最終的には、和解金として、総額約1億5千万円を支払わせて和解解決に至った。
和解契約書では、
上記金銭支払いの外、
「病院側が、患児の扁桃腺・アデノイド摘出手術に際し、麻酔時に挿管チューブの先端が正しく気管内に挿入されなかった手技ミスと担当医らがそれに気づくのに遅れを来した過失等により、患児が低酸素脳症となり、重度の脳障害を後遺するに至ったことを認めて謝罪するとともに、本件事故のような悲惨なことが二度と起こらないように再発防止に努めることを約する」と明記し、
謝罪と再発防止への努力の約束を勝ち取った。
今、両親は、和解解決に至ったことを喜びつつも、
患児の状態が少しでも前に進むことを願い、
一層の夫婦の協力と努力を誓い、患児のために奮闘中である。
なお、両親は、早期に、病院側の落ち度を示すカルテを確保できたことで、
今日の裁判外の解決に至ったとして、事故直後に、法律相談に臨み、
証拠保全手続を急ぐことができてよかったとしみじみと語っている。
患児の一層の回復・成長とリハビリの前進を切に祈りたい。