運送会社運転手の未払い残業代300万円を支払わせる
− 労働審判手続で調停成立
1 話しが違う・・・
聞いてみると、就職時の求人票は、1日8時間労働で
「基本給(月額換算・月平均労働日数 25.0日)
335,000円〜375,000円」との記載があり、
基本給(日給)は、最低でも
「335,000円÷25.0日=13,400円/日」
となるはずであった。
しかし、実際には、求人票の記載とは異なり、
「基本給」は残業代込みでの数字として扱われ、
長時間のサービス残業が常態化していた。
いくら働いても支払われるのは求人票の「基本給」のみであった。
2 過酷な長時間労働
Aさんの会社では、必ず朝7時に出勤して
朝礼に出ることが義務づけられていた。
朝礼後、荷物をトラックに積み込む作業を1〜2時間。
その後すぐにトラックで配達に出る。
配送先への到着時刻の厳守を求められるので、

集荷してきた荷物を翌日の配達に備え整理するのも
Aさんたち従業員の仕事である。
この作業に2〜3時間を要し、退社時刻は、
連日午後8時から午後9時になるのが常であった。
3 上司の指示
しかもAさんは、勤務初日の帰社後、運転日報に、
朝礼開始の朝7時から最終業務終了の時刻
を記載して提出したところ、
上司から、
「運転日報だから、運転した時間だけを書くように」指導され、
以後、その指示通りに運転日報を記載せざるを得なかった。
すなわち、相手方の運転日報についての指示は、
①荷物をトラックに積み込む時間(1〜2時間)は記載せず、
会社を出発した時刻を記載する。
②配達・集荷作業を終え会社に戻ってきた時刻を記載する。
帰社後の翌日の準備作業時間(2〜3時間)は記載しない。
③昼休みを、正午から1時まで1時間取ったように記載する。
−というものであった。
なお、Aさんの会社にはタイムカードもなかった。
4 わずか1年半の未払い残業代、その額490万円!
ほぼ連日、朝7時から夜は8時〜9時まで働いていたにもかかわらず、
8時間を前提に求人票に記載された「基本給」しか支払われていなかった。
渡される給料明細には、求人票の「基本給」額を、
適当に割り振って、本給、通勤手当、みなし残業手当
などの名目の金額が記載されてはいたものの、
支払われる合計額は、何時間残業しようが、
求人票の「基本給」額「335,000円〜375,000円」
の金額だけであった。
求人票の「基本給」を基礎に、Aさんの未払い残業代を計算してみると、
わずか1年半の間で、その額は約490万円にも及んだ。
5 労働審判申立
Aさんは会社を相手取り、2011年4月、
地元の地方裁判所に残業代の支払いを求めて
労働審判の申立をした。
タイムカードはなく、
運転日報も上司の指示で実際の労働時間が反映されていない。
実際の労働時間の証明は困難を伴った。
Aさん及び妻の記憶と
妻の携帯に残っていた夫婦間の「帰るコール」の履歴を
妻の協力で証拠化するなどして、退社時刻を推測し、
残業時間を計算しての請求とならざるを得なかった。
これに対して会社側は、
残業代込みの「基本給」であることを入社時に説明した、
Aさんの業務遂行が非効率的であった、
取引先からのAさんについての苦情が多かった
等々の主張をしたが、
労働審判員の説得もあって、
2011年8月に開かれた第3回の審判期日において、
会社がAさんに、解決金として300万円を支払うと調停が成立した。
実際の労働時間を証明する資料が少ないなどの困難を乗り越えて、
妻の協力を得て解決に漕ぎ着けたAさんは、闘ってよかったとの思いをかみしめた。
今、Aさんは、別の運送会社で、
出社・退社の時刻を毎日、手帳にメモしながらも、明るく元気に働いている。

【一口知識】 労働審判制度とは? |
労働者と事業主との間で発生した労働関係に関する紛争を、 迅速・適正に解決するために設けられた制度。 裁判所におかれた労働審判委員会が、原則3回以内の労働審判手続期日で審理。 労働審判委員会の構成は、裁判官である労働審判官と労使各1名の労働審判員の計3名。 2006年4月に始まった制度。 調停がまとまらない場合、労働審判委員会が、審理の結果をふまえて判断を下します(労働審判)。 その判断に不服があれば、労使双方が異議申立をすることができます。 その場合は、通常の訴訟に移行します。 |