たんぽぽ法律事務所

蒲公英 DANDELION 1990年7月2日設立

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          (なお、本書の無断利用は固くお断りします。)

それは2009年1月末のアメリカからのメールで始まった。

アメリカ在住の亜矢さん、

インターネットで日本の弁護士を探していたところ、

当事務所のホームページを読み、

メールで法律相談を申し込んできた。

1 共有物分割訴訟 

アメリカ人の元夫ニクソンから、

日本にある二人の共有不動産(登記上の持分は各2分の1)について、

共有物分割訴訟を提起されたとのことである。 

二人とも現在アメリカ在住だが、不動産は日本にあるために、

日本で裁判をしなければならない。 

この裁判でニクソンは、

① 本件物件を競売にかけ競売代金を持分に従って分けること、 

② 離婚後に亜矢さんが受け取ってきた本件物件の賃料の半額

(10年分の賃料の半額1800万円)の返還−を求めていた。 

2 事実は・・・?

  二人は、20年前結婚し、10年前協議離婚した。

  婚姻期間中、2子をもうけ、本件物件を購入した。

  本件物件の購入資金1億2千万円の負担割合は、

 亜矢さんとニクソンとは3対1であったが、

 事情により登記上の持分権は2分の1ずつにした。

協議離婚の際に2人は以下の離婚の条件を合意した。

①養育(監護)権者を亜矢さんとする事を条件に親権者をニクソンとし、

②ニクソンは亜矢さんに、自分の共有持分権2分の1を財産分与する。  

 これらの事実からすると、

 本件物件の所有権は全て亜矢さんにあるので、

 ニクソンには、共有物分割請求・賃料請求、いずれの権利もない。

3 離婚時の合意は踏みにじられた

しかし、ニクソンは、この離婚時の合意を踏みにじった。

財産分与の持分権移転登記にも、

亜矢さんが子供たちの養育を行うことにも協力しなかった。

遂には、あろうことか、

亜矢さんに無断で子供たちをアメリカに連れ去ってしまった。

愛しい我が子たちに会うために、

亜矢さんは一流企業での20年のキャリアを投げ捨てて渡米した。

4 桁はずれのパワフルカップル  

離婚までに、

 ニクソンからの調停申立(夫婦円満調整、婚費分担等)4回、

 亜矢さんからの提訴(離婚・親権・財産分与・慰謝料等)1回、

 離婚後渡米までに、

 亜矢さんからの調停申立(面接交渉、財産分与)3回、

 そのほとんどが調停・裁判の取り下げにて終了した。 

 そして、二人の裁判闘争の舞台は、アメリカに移った。

 渡米後8年間にわたって、

 親権、面接交渉、養育費の裁判を延々と繰り広げた。

 アメリカで費やした弁護士費用は、双方各3000万円を超えるという。 

 その不屈のエネルギーに脱帽。桁はずれのパワフル・カップルである。

5 共有物分割請求と賃料返還請求、阻止のために

しかし、亜矢さんの言う事実を直接裏付ける証拠は乏しかった。

本件物件購入時の資料は散逸し、

離婚時の「合意」内容は書面にしていなかった 

(ニクソンが後日書面にすると約束したが、これにも違反した。)。

しかも、20年前、10年前の話しである。

共有物分割訴訟は、

登記でほぼ勝敗が決せられると言っても過言ではない。

これを覆すには、強力な証拠が必要である。

極めて困難な訴訟となることは明白だった。

しかし、受けて立つしかない訴訟であった。

6 干し草の山から針を見つけ出す  

こちらに課されたミッションは、一にも二にも、証拠収集、

本件では、いわば「干し草の山から針を見つけ出す」ことだった。

過去20年の長きにわたる二人の間の紛争の歴史をめぐって、

私と亜矢さんとの間で行き交った報告と質疑応答のメールは400通にのぼり、

亜矢さんから送られてきた裁判資料を含む資料は段ボール7〜8箱になった。

本件物件購入の詳細(契約内容、土地代金・建物建築費・諸費用の支払

の時期・支払先・支払金額、住宅ローンの内訳とその返済経過等々)

の証拠は何とか揃った。

しかし、亜矢さんの現金資金と亜矢さんを結びつける証拠が不十分であり、

また本人の記憶も曖昧であった。20年も前のことである。 

だが、本件物件購入に関わった亜矢さんのお母さんが残した

数十冊の手帳やノートの中から、

本件物件購入の資金源と支払時期・支払金額を

詳細に記載した数ページが見つかった。

その記載内容は、他の客観的資料が示す事実ー

本件物件の購入資金の支払い時期・支払額等とほぼ付合していた。

しかし、本件の最大の問題は、

離婚時の財産分与の合意を裏付ける証拠である。

私の手元には、受任当初から預かっていた一枚の奇妙な書面があった。

パソコンで作成された「誓約書」の内容は、

「敬愛なるニクソンへ・・・」とのタイトルで始まり、

亜矢さんがニクソン宛てに書いた形式をとっている。

離婚時に亜矢さんが財産分与と交換に親権を手放したこと、

とっくに終わっていた離婚訴訟を持ち出し、

その中で亜矢さんが主張したニクソンの暴力等について、

その内容は大嘘であり、数々の証拠も偽造したこと、

ニクソンは子供らにとって実に良き父親であること、

ニクソン相手に今後裁判など起こさないと誓約する等々あげつらっている。

そして末尾に、亜矢さん直筆の日付・署名と捺印がある。

財産分与の合意以外は全て事実に反し、

養育(監護)権者を亜矢さんにするとの前提条件も抜け落ちており、

徹頭徹尾ニクソンに有利で亜矢さんに不利な内容となっていた。

離婚1年後、ニクソンから子供に会いたければサインしろと迫られ、

泣く泣く亜矢さんがサインした「誓約書」であった。

日本人の通常の感覚を持ってすれば、笑ってしまうほどに、

この本文作成者はニクソン以外にないこと明々白々なのだが、

英文に翻訳されると亜矢さんの「自白調書」に見事に変貌する。

実に用意周到、狡猾な文書である。

とはいえ、この「誓約書」は、形式上亜矢さんの作成文書であり、

ニクソンがその本文を作成した証拠がないだけに、

財産分与の「合意」を裏付けるにはこれだけではまだ足りない・・・

「誓約書」をにらみながら半年が過ぎようとしていた頃、

アメリカの膨大な裁判資料の中から、

財産分与をニクソン側が認めた書類が見つかった。

それは、7年前、アメリカの裁判の初期段階に作成された書類で、

書類控えJ.bmp

ニクソンとその代理人弁護士作成の2通の宣誓供述書であった。

どちらも、亜矢さんが子供の母親として不適格であるとして

偽りの事実をこれでもかと並べ立てた内容であった。

その中で、

離婚時に、親権と本件物件のニクソンの持分権を交換したと

ニクソンも弁護士も、口を揃えて供述していた。

更には、ニクソンの宣誓供述書では、

上記の奇妙な「誓約書」を亜矢さん自らが作成した証拠として引用し、

「誓約書」にも財産分与の合意があることを供述していた。

ニクソン側の意図は、

子供と財産を交換した欲深い母親と強調することにあった。

アメリカでは、終始一貫して、ニクソンは、

本件物件の所有権は全て亜矢さんにあることを認め、

本件物件の賃料全額を亜矢さんの収入として養育費を算定させ、

ちゃっかりとその養育費を受け取ってきてもいたのである。 

      本件物件の財産分与の合意があったことの決定的な証拠である。

これらの宣誓供述書を、

アメリカの裁判所の公的認印のある書面として入手し直し、

更に正式な翻訳文書を作成するのに5ヶ月かかった。

7 反訴提起

本件裁判で、 こちらは、

① 購入資金割合より実質的持分は登記上の持分と異なること、

② 離婚時にニクソンの持分権は財産分与により亜矢さんに移転したことより、

ニクソンの請求は認められないと反論し、収集した証拠を次々提出した。

しかし、これだけでは、ニクソンの請求を退けるだけで、

本件裁判に勝ったとしても、現状維持に終わるだけである。

満を持して2010年2月、

ニクソンの持分権全部を財産分与として移転登記せよと反訴を提起した。

自分の尋問に、ニクソンは「通訳」を入れることを要求した。

ニクソンは、上記「誓約書」を作成できるほどに日本語に通じており、

実際、仕事上も日米通訳もできるほどに日本語に堪能である。

計算し尽くしたパフォーマンスである。

案の定、尋問では日本語がわからない振りをされた、

そのため一つ一つの尋問にいたずらに時間がかかった。

しかし、これは想定内のことであった。

8 クリスマスプレゼント

2010年12月24日、判決が言い渡された。

 

 本訴に係る共有物分割の訴えを却下する。
   原告のその余の本訴請求を棄却する。
 3  反訴被告は、反訴原告に対し、別紙物件目録・・・記載の反訴被告の持分全部について、平成○○年○月○日財産分与を原因とする移転登記手続をせよ。
 4  訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、原告(反訴被告)の負担とする。 

全面勝利の判決であった。

判決前まで、亜矢さんは日本の裁判に対して懐疑的であった。

この8年間、アメリカの裁判で苦渋を嘗めさせられてきたからであった。

亜矢さんの目には、アメリカの裁判官は、

ニクソンのあからさまな嘘をいとも簡単に信用するのに、

亜矢さんが出した証拠には目もくれない等

不公平、偏頗な対応をするばかりに映った。

アメリカの裁判官の根底にある人種的偏見を痛感しており、

日本の裁判官も逆の意味で、

白色人種のニクソンに肩入れはしないかなどと懐疑的であった。 

日米の裁判方式の違いや、家事事件と一般民事の違いなどもあろう、

日本の裁判官は偏見や感情ではなく証拠に基づいて判断するのだ、 

・・・と何度説明しても、亜矢さんの疑心を払拭できなかった。

判決前日まで、亜矢さんは極めて悲観的であった。

メールに添付して送信した判決書を読んだ亜矢さんは、

何度読んでも現実のことと思えない、

日本の裁判官はこれほどまでに緻密に証拠を検討するのか、

と驚嘆した。

こんなクリスマスプレゼントは期待もしていなかったと、

深夜(アメリカ時間)の国際電話で語った。

 

【 後日談 】    

ニクソンは控訴し、舞台は東京高等裁判所に移った。

2011年9月、ニクソンの控訴は棄却され、確定した。

10年余りに渡る財産分与紛争に終止符が打たれた。

が、しかし、かのアメリカの地では、

ニクソンが養育費支払請求の新たな裁判を提起した。

亜矢さんは、本件裁判の仕返しだと分かってはいるが

応戦せざるを得ず、今新たな裁判闘争に入っている。

やはり、桁はずれのパワフルカップルである。

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