たんぽぽ法律事務所

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「日帰り人間ドックでの胃癌見逃し死亡事件で勝利の和解

               − 東京地方裁判所で7000万円の和解金と謝罪」

   〜  弁護士弓仲忠昭・弁護士元倉美智子共同受任事件 〜   
                                                        
    ※名前、時期等、内容を損ねない程度に一部変えてあります。

1 医療事故

大手商社A社勤務の哲夫さん(仮名。死亡当時54歳)は、

普段から健康に気を遣い、

A社健康保険組合が都内Y病院で実施する

「生活習慣病健診」(日帰り人間ドック)

を毎年受診する模範社員であった。

健診の結果は、2003年秋も、2004年秋も、異常なしであった。

2 2005年秋の健診と哲夫さんの死

胃部レントゲン検査(直接撮影)で「胃前庭部潰瘍及び腫瘍の疑い」が指摘され、

Y病院で精密検査(胃内視鏡検査)を受けたところ、胃癌が見つかった。

前年(2004年)のレントゲンフィルムにも早期胃癌の徴候が認められ、

これに気づいたY病院は、哲夫さんに、率直に、

前年の健診での読影漏れを謝罪し、

また医療費は全額負担することを伝えてきた。

 哲夫さんはY病院に入院し、胃の3分の2の切除手術を受けた。

 が、翌2006年9月には、胃癌が再発(リンパ節転移)し、

 同年10月に哲夫さんは死亡した。

 

健診で胃癌を見落とさなければ・・・との思いが、

妻の君江さん(仮名)の心の底に澱のように滞っていた。

3 Y病院の対応

哲夫さんが亡くなって、3ヶ月余りたった2007年1月に、突然、

Y病院の代理人の弁護士から、妻の君江さん宛に書面が届いた。

<その書面には>、

2004年秋の健診における読影漏れは誠に遺憾であるが、

健診での読影に関する医師の注意義務にも一定の限界があり、

癌の見落としと死亡との因果関係が認められない過去の裁判例は多く、

本件も因果関係を認めることは困難であり、

諸般の事情を総合考慮して、200万円の支払いによる解決を提案する

等が述べられていた。

 

哲夫さんの死の悲しみから癒えずにいた君江さんは、

一年前のY病院の謝罪の時の態度を一変したこの書面に愕然とした。

そして、健診で胃癌を見落とさなければ・・・

との心の底の澱になっていた思いは、怒りとなって、

君江さんを立ち上がらせた。

 
 
4 調査

君江さんの調査の依頼を受け、

まずは、証拠保全手続により、カルテやレントゲンフィルムの写しなどを入手した。

医療事件は高度に専門的な事件であるので、

第三者の医師(「協力医」)に客観的な意見を聞くことは、

極めて重要で不可欠の調査事項である。

協力医に意見を聞く時、通常、前もって、

カルテ等の資料に診療経過説明書や質問事項書を添えて送り、検討してもらう。

しかし本件の場合、レントゲンフィルムの読影漏れが問題なのである。

何の予備知識を持たず、大量のレントゲンフィルムの中から、

「異常所見」をどの程度発見しうるものかが決め手になる。

紹介者の配慮と協力の下、

本件に関する予備知識が全く無い状態で、

協力医「赤日下(あかひげ)」(仮名)医師に

本件のレントゲンフィルムを見てもらう機会を得た。

赤日下医師は、消化器内科医で某総合病院副院長であったが、

長年集団検診、人間ドックの検診に携わってきた

この分野のエキスパートでもあった。

 

挨拶もそこそこに、

赤日下医師は、本件レントゲンフィルムの読影に入った。

2003年、2004年、2005年と年度の古い順から、

数十枚のレントゲンフィルムを次々とシャーカステンにかざし、 より分けて行く。

素早い作業である。

一通り見終わった後、赤日下医師は、

「人間ドックや定期検診で見る速度はこのくらいのスピードです。」と前置きし、

異常所見が認められるのはこれらのフィルムだと、

より分けたフィルムの一枚一枚を示して説明した。

2003年のレントゲン写真にすでに、

胃癌もしくは胃の疾病を疑い得る異常所見が認められ、

要精密検査と判定すべきであるとのことであった。

この段階で精密検査を受けておれば、胃癌を発見し、

適切な治療を受けることで死の結果を避け得ただけでなく、

胃癌は完治できた可能性が非常に高いという。

そして、赤日下医師は、もし本件が訴訟になった場合、

名前を出して意見書を作成することはもちろん、

法廷でもどこでも出て行って意見を述べましょうと力強く約束してくれた。

最後に、

問われて、患者は54歳の男性であることを告げると、

赤日下医師は、2003年に胃癌を発見していたら、

今頃元気に仕事していたでしょうと話した。

5 交渉
 
1年近くの交渉の結果、Y病院は、

当初の提示額の十数倍という大幅増額した和解金を提示したが、

自らの責任を明確には認めようとはせず

この点に納得できない君江さんは、訴訟で決着をつける決意をした。

6 訴訟

君江さんと息子さんは、2009年、亡き哲夫さんの無念を晴らすべく、

Y病院を相手取り東京地方裁判所に損害賠償請求の訴えを提起した。

<争点>は、 
① 2003年及び2004年の各健診時の胃部レントゲン写真の読影について、Y病院担当医に注意義務違反(過失)ありやなしや。
② ①が肯定される場合に、その過失と死亡との因果関係ありやなしや。  
<Y病院>は、主として、 
従前認めていた2004年の異常陰影見逃しについても、 多数のフィルムを短時間で読影する必要のある集団健診 (本件「生活習慣病健診」は「人間ドック」ではないと主張。)では、読影医の注意義務は軽減され、過失はないと主張した。  
また、2003年の健診フィルムについては、異常陰影の存在そのものをも争った。

7 訴訟の転機

赤日下医師の鑑定意見書を裁判所に提出した。

報告書2.bmp
 <要旨>は、次のとおり。
① 2003年健診時の胃部レントゲンフィルム8枚中の3枚に「異常」があり、その総合判定として「胃前底部に異常所見あり」と指摘でき、精密検査(通常は内視鏡検査)を指示すべきであった。 
② 2004年健診時の胃部レントゲンフィルム8枚中の3枚に「異常」があり、その総合判定として「胃前底部大彎前壁部に中心が陥凹した明らかな隆起性病変見あり」と診断でき、これらのレントゲン像は、胃癌を疑うに十分な所見であり、直ちに内視鏡検査を指示すべきであった。  
③ 2005年の手術時点で、癌は極めて進展した状態(進行度分類ステージⅡに相当)であり、極めて予後不良と推定できるものであった。
④ 2003年健診及び2004年健診での①及び②の異常所見の指摘部位と2005年健診での被告判定の異常部位(前底部潰瘍及び腫瘤の疑い)と手術された胃癌の部位とは一致する。 

⑤ 2003年健診時に内視鏡検査を行えば癌発見は可能であり、この時点での癌の大きさは1㎝程度で、「Ⅱa型の早期胃癌」と判定される。

リンパ節転移率は、4.8%しかなく手術治療を行えば根治可能である。 

⑥ 2004年健診時に内視鏡検査を行えば癌発見は可能であり、この時点での癌の大きさは2.5㎝程度で、隆起部分の中央部の陥凹が形成されてきており、「Ⅱa+Ⅱb型の早期胃癌」と判定される。

胃壁の粘膜下層に癌が浸潤しているものの、X線像では胃壁に明らかな変形が認められないので、筋層までは達していないと診断される。

この場合のリンパ節転移率は、12.6%であり、手術治療し適切な薬物療法を行えば根治可能性が高い。 

 「生活習慣病健診」であろうと「人間ドック」であろうと、実施した胃の検査の精度に差があってはならず、同時に判定する数の多少は判定の精度とは無関係である。

健診で、胃の直接撮影をしておきながら、癌の可能性があり要精密検査(内視鏡検査)と判断すべき 「異常所見」を見逃すことは許されない。

なお、

「2004年の読影ミスは認めるが、2003年の写真で異常を発見することは困難」

とのY病院の反論に対し、

「2004年の写真で異常を指摘できない読影医では2003年の異常を指摘することは不可能。 つまり、一次方程式すら解けない学力の持ち主に二次方程式が解けないのと同等である。」

 と喝破した。 

 訴訟上の和解

8 訴訟上の和解

赤日下医師の意見書が決め手となり、

Y病院もその責任を明確に認めるに至り、

2010年夏、哲夫さんの遺族に対し7000万円を支払うというだけでなく、

「健診画像の読影漏れによる今回の事故を真摯に受け止め、

今後よりよい医療を提供するように努めるとともに、

故哲夫氏のご冥福を祈り、原告らに哀悼の意を表」して、

裁判上の和解が成立した。

君江さんがその悔しい思いを法廷での証言台で供述するとともに、

何よりもY病院に責任を認めさせ得たことで、

君江さんと息子さんは闘ってよかったと感無量の思いであった。

9 後日談

 赤日下医師は、東京での総合病院副院長を辞し、 

 それまでの輝かしいキャリアも捨て、

 遙か遠い離島の診療所へ行った。

 半年近く常駐医師が不在だった島民850名の小さな島である。

和解解決の報告に、

−「東京でやり残してきた最後の事柄が終了してほっとしています。

御家族はこれで溜飲を下げることができ、故人に報告ができたことでしょう。」

何故、離島の診療所に?

−「病院の勤務に疲労が溜まりへばってきたからで、

体力がまだ残っているうちに世の中へ最後のご奉公でもしようかなと考え、

離島医療への参加を決意しました。」。

東京暮らしから、町まで45分かかる船便(1日4便)の離島暮らしへ

−「慣れれば不便さはあまり感じません。

医師は私一人で、不安な気持ちもありますが、日々の診療にはだいぶ慣れてきました。

島は緑に包まれ静かで島民は皆穏やか、

診療所の2階の住まいからは紺碧の海と白い波、

その向こうに緑の島々、

夕暮れには真っ赤な夕陽が眺められ、

まるでリゾート地で生活しているようで癒され、

一緒に来た家内ともどもとても健康的に暮らしております。」。

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