「人生に影響を与えた本を一冊あげよ」と言われれば、
迷うことなく、この本をあげたい
−『ある弁護士の生涯』(岩波新書)。
およそ法律とは縁のない大阪の外国語大学に在籍しながら、
自分の進路に混沌とした思いを抱き
毎日ぼんやり過ごしていた時期、
ふと、大学生協で手にしたこの本を、その夜読み通した。
弁護士になろう−明け方決意した。
適齢期を前にした娘のこの突然の方向転換に
最も反対すると思われた母の答は、一言『頑張りなさい』。
外国語大学を中退し、
全財産3万円のみ手にして(今思うと全く無謀であったが)上京した。
アルバイトで学費・生活費を稼ぎながら、
大学再入学、司法試験受験・合格までは結構長い道のりだった。
決意の朝から10数年、『ある弁護士』布施辰治に再会した。
郷里石巻に、布施辰治顕彰碑が建立されたのである。
顕彰碑に刻まれたその人の肖像と言葉は、自分に、
様々の弁護士業務に追われる日々の中で
埋もれてしまいがちな原点を思い起こさせた。