DHCスラップ訴訟、そして反撃〜(2019年8月15日)弓仲
1 株式会社ディーエイチシー(DHC)
吉田嘉明会長は、手記を週刊新潮に公表した(2014年3月)。
手記では、
吉田会長が「みんなの党」の党首であった渡辺喜美衆議院議員に
密かに8億円余を貸し付けていたことを暴露し、
同議員の不明朗な貸付金使途や変節等を批判した。
渡辺議員は、同議員のブログ記事で吉田手記に反論した。
その後、全国紙6紙の社説は、
同議員の党首辞任を取り上げ、
「政治資金や選挙資金の流れに徹底した透明性が必要」と批判し、
8億円の使途の解明を求めた。

2 澤藤統一郎弁護士は、これらの手記や記事をもとに、
改憲への危機感から毎日書き続けているウェブサイト「憲法日記」に
3本の批判的ブログ記事を書いた(2014年3月31日〜4月8日)。
澤藤氏は、これらの記事で、
吉田会長が渡辺議員に8億円余りを貸し付けた行為は、
政治を金で買おうとするものであると批判。
政治家とこれを金で操るスポンサーとの関係は、
大旦那(スポンサー)と幇間(政治家)の関係のごとし。
政治資金・選挙資金の透明化の必要性と政治資金規正法の不備も指摘。

3 吉田会長とDHC(以下、「吉田会長ら」)は、
澤藤氏を相手取り、東京地裁に、
上記3本のブログ中の記述を名誉毀損として訴えを提起(2014年4月16日)し、
各1000万円(計2000万円)の支払い、
名誉毀損部分の削除、
謝罪広告
を求めた。
4 吉田会長らの提訴は、
吉田会長に対する批判的な言論を封じることを目的とする、
いわゆる「スラップ訴訟」である。
澤藤氏は、吉田会長らの提訴につき「スラップ訴訟」と批判するブログを
自らのウェブサイトに掲載(2014年7月13日〜8月8日)した。
澤藤氏は、 提訴対象となった自身の3本のブログの内容を紹介し、
民主主義社会における言論の自由、批判の自由の重要性を述べた上で、
以下のとおり、
吉田会長らによる訴え提起が澤藤氏の言論を封殺しようとしたものと批判。
経済的強者が市民の意見表明を萎縮させる意図で行う
「スラップ訴訟」
への批判を呼びかけ。
市民の政治的言論の自由が
一部の経済的権力によって蹂躙されないため
批判の自由が重要であること、
その批判を封じようとするスラップ訴訟への批判の重要性を指摘。
吉田会長から渡辺議員に密かに交付された8億円は
政治資金でありながら届出がなされない点において「裏金」である、
その授受を規制できないとする解釈は政治資金規正法をザル法に貶める、
と批判。
さらに、澤藤氏が、巨額の金の流れを監視し批判の声をあげたのは、
主権者として期待される働きであり、
吉田会長らの提訴は「スラップ」であり間違っていると。

5 澤藤氏の吉田会長らの提訴をスラップ訴訟として批判するブログの記述につき、
さらに名誉を毀損したなどとして、
吉田会長らは、澤藤氏に対する従前の請求額を3倍増してきた。
吉田会長及びDHC各自につき
3000万円(計6000万円)に拡張したのである(2014年8月29日)。
6 東京地裁は、
吉田会長らの請求を全面的に棄却する判決を下した(2015年9月2日)。
吉田会長らの控訴を受け、
東京高裁は控訴棄却の判決(2016年1月28日)を、
同人らの上告受理申立を受け、
最高裁は上告不受理の決定(2016年10月4日)を、各下し、
吉田会長らの全面敗訴が確定した。

7 吉田会長らは、前記訴訟の控訴審判決が出るや、
DHCのウェブサイト上に、
吉田会長が執筆した「会長メッセージ」と題する文章を掲載した(2016年2月12日)。
そこでは、吉田会長は、
「政界、官僚、マスコミ、法曹界」には在日が多く、
「裁判官が在日、被告側も在日の時は、提訴したこちら側が100%の敗訴」
になると驚くべき主張をしている。
さらに、吉田会長らは、DHCのウェブサイト上に、
吉田会長が執筆した「スラップ訴訟云々に関して」と題する文章
を掲載した(2016年2月21日)。
そこでも、吉田会長は、
澤藤氏を「虚名の三百代言ごとき」「反日の徒」などの侮辱的表現を用いて罵倒したうえ、
「どこの国の人かわからないような似非日本人が跳梁跋扈している世の中…
…には私は断固反対します。」
と驚くべき主張を重ねた。

8 澤藤氏は、名誉毀損訴訟には勝訴したものの、
吉田会長らの違法な提訴及び6000万円への請求拡張により生じた、
応訴のための肉体的、精神的、時間的負担や弁護士費用の損害は残されたままであった。
そこで、澤藤氏は、
その損害を回復するとともに、言論を萎縮させる「スラップ訴訟」を断罪すべく、
吉田会長らに対し不法行為に基づく損害賠償請求の訴え
を提起した(2017年11月10日)。
9 澤藤氏のブログでの言論は、
吉田会長が手記により自ら週刊誌に告白した事実を前提とする意見を表明した論評であり、
そもそも名誉毀損の成立するものではなかった。
吉田会長らの主張は「事実的、法律的根拠を欠くもの」であるうえ、
吉田会長らは「そのことを知っていた」
又は「通常人であれば容易にそのことを知りえた」にもかかわらず、
あえて訴えを提起したもので、
吉田会長らの提訴は、「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」ものであった。
吉田会長らの提訴目的は、
批判者への嫌がらせ、威圧、見せしめにより、批判の言論を封殺することにあり、
許されざる「スラップ訴訟」であった。
10 澤藤氏提訴の「スラップ反撃訴訟」では、
東京地裁は、澤藤氏側の申請を受け、
吉田会長の本人尋問をすることを決定し、吉田会長を法廷に呼び出した。
しかし、吉田会長はその必要性がないとうそぶき、
本人尋問が予定された法廷(2019年4月19日)への出頭を拒否した。
吉田会長の前述(7項)の非常識な信念が、
批判する他者への言論封殺を目的とした無謀且つ違法な提訴に至り、
裁判所の訴訟指揮も無視する傲慢な訴訟遂行を招いた。
11 「スラップ反撃訴訟」はすでに結審(2019年7月4日)し、
判決言い渡し期日は、10月4日(金)13時15分と指定された。
表現の自由保障の重大さに十分な配慮のうえ、
吉田会長らによる裁判制度の不当な利用を厳しく断罪する判決を期待したい。