アベ内閣とメディア、ジャーナリスト〜(2017年8月15日)弓仲
1 森友・加計疑惑や自衛隊「日報」問題をめぐり、
疑惑を裏付けうる様々な内部告発と思われる「文書」が

この間マスコミを賑わした。
疑惑の当事者は、
あるべきはずの文書については、
「適法に廃棄した」「作成していない」とうそぶき、
他方、告発「文書」に反することが、
裏付けもなく「事実」として語った。
2 アベ内閣のスポークスマン、スガ官房長官の

木で鼻をくくるがごとき答弁に食いついたのが、
東京新聞社会部の望月塑子記者である。
官邸の記者クラブは
大手各社の政治部記者で構成する記者会。
知っているが書かない、
質問はほどほどに、
政府を追い詰めない、
予定調和を乱す者は排除、
などと揶揄されるているが、さもありなん。
かつて、モリ元首相の「神の国」発言では、釈明会見で幕引きが図られた。
後日、記者クラブ内で、この会見を切り抜ける方法を列挙した文書が見つかった。
政府べったりで有名な某放送局の記者が作成した、
モリさんに逃げ道を指南する文書である。
権力監視を使命とする報道機関の記者が
権力側と一体になって国民からの追及逃れを画策した
というのであるから何をか言わん。
この問題は結局うやむやのままで終わったが、
報道の自殺行為以外のなにものでもなかろう。
本年6月8日のスガさんの定例記者会見。

3 「加計学園」の獣医学部新設をめぐる
「文科省文書」の存在が焦点になっていたが、
官邸詰め政治部記者たちの追及は甘い。
こんな緩い官邸記者クラブに一石を投じ、
追及に乗りが出したのが、
東京新聞社会部の望月衣塑子記者である。
以下、その際のやりとりから。
望月 「前川氏だけじゃなく複数の告発が報道されている。再調査の考えは?」
スガ 「法治国家として、法律に基づいて対応している。」
望月 「公益通報者保護法ガイドラインでは、
匿名通報も可能な限り、実名通報と同様に取り扱うよう努めるとあるが、
法治国家というならガイドラインに沿って調べるべきでは?」
スガ 「文科省において検討した結果、
『出所や入手経路が明らかにされない文書については、
その存否や内容などの確認の調査を行う必要はない』
と判断した。」
望月 「(政府の否定にもかかわらず)共有フォルダにあって、
現在でも複数の文科省職員が持っているとの匿名の告発が出ている。
もう一歩踏み込んで調べていただきたい。」

スガ 「文科省の方で、
『その存否や内容などの確認の調査を行う必要はない』
と判断をした。」
…
望月 「現役の職員たちが身の危険を冒して告発に出ている。
もし実名告発に踏み切った場合適正な処理をするのか。」
スガ 「仮定に答えることは控える。
いずれにしろ、文部科学省で判断する。」
望月 「仮定ではなく出所不明だから調べられないという亊を繰り返されているが、
勇気をもって出所を告発した場合、話をもとに調査を行っていただけるのか。」
スガ 「ですから、仮定のことに答えることは控える。
文部科学省において判断する。」
4 加計疑惑に関し、望月記者から「なぜ再調査しないのか」と
厳しい追及を受けたスガさんは状況を説明するため、
その足でアベさんの執務室に駆け込んだ。
会見翌日の6月9日になって、「文科省文書の再調査」が決定された。
望月記者の追及とそれを支える世論が、アベさん、スガさんを追い詰めた。
5 しかし、この望月記者のスガさんへの「しつこい食い下がり」
に怒り狂ったのが、あろうことか官邸の記者クラブだという。

「社会部の記者だから長官会見の作法がわからない。
場を乱しすぎた。それで、記者クラブの総意として、
東京新聞に抗議するという話が出た。
結局見送られたが……」
(官邸担当記者、「日刊ゲンダイ」6月13日付け2面)
とのこと。
まさかのアベさんへの「忖度」、
アベさんの官邸にしっぽを振りたがる官邸詰め政治部記者の存在が見えてくる。
元来、権力を監視し、時の政権が隠していたことを発掘・報道する
ことこそジャーナリスト、メディアの使命である。
6 このジャーナリスト、メディアの使命を嫌悪して、

圧力を加えたり、マスコミ首脳との繰り返される食事
会などで懐柔したりを続けてきたのが、
アベさんとその政権である。
2001(平成13)年1月のアベ官房副長官(当時)
によるNHK従軍慰安婦番組への改変圧力疑惑。
政権を取った後、マスコミへの圧力はエスカレート。
岸井成格さんがメインキャスターを務めていた
TBS「NEW23」に生出演したアベさん。

「街の声」インタビューで、
アベノミクスの「成果」なる ものを実感できない
などと否定的な声が多かったところ、

アベさん、反射的に「これおかしい」と
かみついた(2014年11月18日)。
意に沿わない批判が放送され気にくわなかったとみえ、
11月20日アベさんの側近中の側近ハニュウダさん
(自民党筆頭副幹事長、当時)が
在京テレビキー局各社のキャップを呼び出し、
「選挙時期における報道の公正中立ならびに公正の確保についてのお願い」
なる文書を手渡した。
翌11月21日には衆議院が解散された。
解散後の総選挙をめぐる報道では、
街頭インタビューは、一部を除き多くの番組で姿を消したという。
2015(平成27)年9月、

「戦争」法の国会審議の大詰めの頃の
岸井キャスターの発言
「憲法違反の疑いが強い、
メディアとしても廃案に向けて声を上げ続けるべき」
をとらえ、
同年11月には、
アベさん支持を公言する人たちのグループが
「放送法遵守を求める視聴者の会」の名前で、
読売、産経両紙に、
名指しはしないものの前記岸井氏の発言を批判し排除を求めるか
のような異様な全面広告を出した。
2016(平成28)年2月には、タカイチ

総務大臣が、テレビの電波停止に言及した。
放送法4条の「政治的公平」に反すると総務
大臣が判断すれば電波の停止を命じ得るとい
うのだ。
アベさんとそのお仲間は、
自分たちの政権に都合のいいように、
放送法などの法律を解釈してきたが、
タカイチ発言は、
放送局の表現の自由(憲法21条)を侵害するトンデモ解釈である。
2016年3月から4月にかけての番組改編期には、
権力にもしっかりものを言ってきた看板番組のキャスター3人が
相次いで番組を降板した。
前記TBS「NEWS23」の岸井成格さん。
テレビ朝日「報道ステーション」の古館伊知郎さん。
NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子さん。
いずれも、キャスター、ジャーナリストとしての使命を自覚し
矜持をもって発言されてきた方々。
これらの方々の降板につき、
放送局上層部に対するアベさんたちの直接の圧力
などがあったかどうかは闇の中……。
7 民主主義国家にとって
権力を監視する報道機関の存在は不可欠であり、
テレビ・新聞などのメディアの動向には、
私たち市民の不断の監視の目が必要。
権力監視というメディアの使命を逸脱するような事態が発生するなど
おかしいと思えば、その声を電話などで放送局・新聞社に率直に伝えよう。
いい報道だと思えば、良かったという感想などを、
視聴者・読者の声として届けよう。
アベさんたち、権力者のマスコミへの恫喝や懐柔のなかで、
それに負けずに権力の監視役として頑張っているジャーナリスト
が存在していることの意味は大きい。
権力の圧力やマスコミ各社の上層部の圧力や「忖度」にめげずに
頑張っているジャーナリストを励まそう。
マスコミ、ミニコミ問わず、
権力監視機能を十分に果たしてくれるジャーナリストが
増え続けることを願い、希望を託しつつも、
油断することなく見守りたいものである。
