沖縄・北部訓練場返還式の欺瞞〜(2017年1月1日)弓仲
1 昨年暮れの12月22日、

沖縄の米軍専用施設・北部訓練場(国頭村、東村)
の過半約4000haが返還され、
名護市で政府主催の「返還式」が行われた。
返還式には菅官房長官、稲田防衛大臣、ケネディ駐日大使など
日米両政府や米軍関係者,自民の国会議員ら
約120名が出席したが、
沖縄側からの参加はまばらだったという。
翁長雄志知事は「返還式」には参加せず、
同じ名護市で開かれたオスプレイ墜落抗議集会に。
菅官房長官は、
「返還は本土復帰後最大規模。沖縄の基地負担軽減が前進。」と成果を強調し、
翁長知事がオスプレイ墜落に抗議して式典を欠席したことを「きわめて残念。」と批判。
2 しかし、今回の米軍北部訓練場「過半」の返還は、
安倍首相の号令下で
東村高江のオスプレイパッド(着陸帯)6カ所の「年内完成」が強行され、
米側に「贈呈」されたことへのご褒美。

オスプレイパッド(着陸帯)の建設が強行された高江の森は、
天然記念物ノグチゲラ、
ヤンバルクイナ、
ヤンバルテナガコガネなど
多数の固有種や希少種が息づくなど
生物多様性に富む世界で唯一の亜熱帯降雨林、
やんばるの森に囲まれた自然豊かな森である。
このやんばるの森が無残に切り刻まれ、
オスプレイパッド「年内完成」が強行された。
3 高江のオスプレイパット建設の反対運動に対し、
政府は、安部首相の「年内完成」の号令の下、
沖縄県警のみならず、全国から機動隊や警察官を動員し、
座り込む県民や支援者を排除してしゃかりきに工事を強行。
10月には、大阪府警所属の機動隊員2名が、反対する県民に対し、
「土人」「支那人」など差別意識丸出しの暴言
を浴びせ、沖縄県民の尊厳と誇りを踏みにじった。
4 12月13日夜には、名護市安部(あぶ)の浅瀬に
普天間基地所属のオスプレイの墜落事故が発生
(政府は「不時着水」と誤魔化すが、大破したオスプレイの機体が大きく損壊し、
ばらばらに散乱している状況を見れば「墜落」は明らか。)。
空中給油訓練中の事故である。

オスプレイの墜落現場は、
辺野古新基地が建設された場合は、オスプレイの場周経路
(着陸する航空機の流れを整えるために、滑走路周辺に設定された飛行経路のこと)となるので、
地域住民は騒音と事故の恐怖にさらされる。

抗議に訪れた安慶田沖縄県副知事に対して、
在沖縄米軍のトップのニコルソン四軍調整官は謝るどころか、
「パイロットは、住宅地を避けて沖に着水した。
住民に被害を与えなかった。感謝されるべきだ。
パイロットはヒーローだ。」と植民地意識丸出しで放言し、
県民の怒りに火をつけた。
オスプレイは開発段階から重大事故が続いており、
反対する県民の声を無視してオスプレイ配備を強行した
日米両国政府の責任は重い。
5 沖縄のアメリカ軍海兵隊は、
墜落事故後は停止していたオスプレイの飛行を、
事故後わずか6日にして,全面再開した。
事故原因の究明も機体回収も終わらない段階
での飛行再開は暴挙というほかはない。
ニコルソン四軍調整官は、
「安全なオスプレイの飛行運用を継続できることを強く確信している」

とコメント。
他方、稲田防衛大臣も菅官房長官も、
「これまでアメリカ側から得た情報等に基づき、
防衛省・自衛隊の専門的知見に照らせば、合理性が認められ、
飛行再開は理解できる」
という趣旨の発言をし、対米追随の姿勢をあらわにした。
翁長知事は、
日本政府のかかる態度につき、法治国家ではないと評した。
6 そもそも北部訓練場の過半約4000ha返還というが、
米海兵隊の「戦略ビジョン2025」では、
「ほとんど使用できない北部訓練場の51%の土地を日本政府に返還するが、新しい訓練施設で、限りある海兵隊の土地が最大限に活用できるようになる」

と書かれている。
使えない土地を返すのと引き換えに、新たに
高江のオスプレイパッド(着陸帯)に加え、
海兵隊の上陸・歩行訓練ルートまで建設して
陸海空が一体となった訓練場に強化する。
これが北部訓練場過半の「返還」なるものの真の姿である。
オスプレイ墜落で県民が恐怖を覚えているにもかかわらず、
原因究明なきままのオスプレイ飛行再開容認という理不尽な仕打ち。
「県民の基地負担軽減」どころか
高江地区の地元住民にとってはオスプレイの「負担増」。
沖縄県民にとっても辺野古新基地建設の強行。
伊江島補助飛行場内の強襲揚陸艦の甲板を模した着陸帯「LHDデッキ」の拡張工事。
かつてないほどの米軍基地増強の進展。
このような実態に目をつぶる欺瞞に満ちた政府主催の「北部訓練場返還式」。
県民の反発と怒りのなかで、翁長知事が
県民の負担増と抱き合わせといういびつなな形での「返還」を祝う政府主催の式典
へ参加できるわけはないであろう。
7 今回の「返還」でも

日本にある米軍専用施設の70.6%が沖縄に集中するという
いびつな状態の本質は何ら変わりない。
沖縄の人々に基地負担の大半を押しつけたまま、
日米安全保障条約上の「利益」を
のほほんと享受し続けている本土の人間の一人として,
この現状を変えるべくできる努力をしたい。
この沖縄の現状は、
同じ日本で起こっている権力の横暴の証しであり、
我々本土の人間も
自らを当事者と自覚することを忘れてはなるまい。
心したいものである。