債権全額回収に成功す〜(2016年8月15日)弓仲
債務弁済公正証書作成と抵当権設定により、債権全額回収に成功
1 ゆゆしき事態

甲県乙市で道路舗装業を営む(株)A舗装は、
B土建(株)から同市内の道路舗装復旧工事を頼まれ、
約束の工期までに仕事を仕上げて引渡しました。
しかし、B土建の資金繰りが苦しくなったため、
約束の支払期がきても工事代金1500万円がA舗装に支払われることはありませんでした。
B土建から、今やっている仕事で毎月少しずつ支払うので待って欲しいとの申し入れが。
小さなA舗装にとってゆゆしき事態です。
2 法律相談
A舗装のA社長から次のような法律相談がありました。
桜の花が咲き始めた頃のことでした。
① | B土建は、乙市から生活道路拡幅整備工事を受注していて無事工事を完成させれば、年末には、900万円工事代金が入るらしい。 |
② | B土建は、甲県からも、管渠補修工事を受注していて無事工事を完成させれば、来年の梅の咲くころまでには、2000万円余の工事代金が入るらしい |
※管渠(かんきょ)とは・・・水路の総称。 給水・排水を目的として作られる水路全体を指す。

B土建には所有不動産はないが、
B土建のB社長の個人所有の自宅の土地建物は、
時価にすると5000万円は下らないものの、
既にこの額近くの先順位抵当権がつけられていました。
B土建としては、今の資金繰りを乗り越え、
既に請け負っている二つの仕事①②を完成させながら、
新規工事を受注して生き伸びようとしていました。
B土建は、
A舗装には1500万円の支払い猶予を求めて当面の倒産回避をはかりつつも、
他方、直前、他社に極度額3000万円の根抵当権を設定していることが判明しました。
当面の倒産回避のためには、A舗装の協力を取り付ける必要がありました。
3 対抗策の検討と実行
工事代金①②の仮差押も考えましたが、300万円近い保証金が必要です。
また仮差押はB土建倒産の引き金となり、早期に倒産すると工事①②が進展せず、
十分な債権回収の見込みが立たないことなどから、仮差押の方針はとりませんでした。

倒産回避を望むB土建は、A舗装と話し合いでの解決を望むはずです。
工事代金1500万円のうち1年間のみ月額30万円の分割払いを認め、
代わりにB社長が個人保証し自宅に抵当権設定登記をしてもらいました。
更にB土建とB社長双方に、工事代金分割払いと連帯保証の契約につき、
支払い不履行の場合強制執行できる公正証書を作成してもらいました。
4 公正証書による債権差押
B土建からの30万円の分割支払いは、彼岸花の咲く9月頃までは実行されましたが、
それ以後は、10万円の支払いがあったのみで、支払われなくなりました。
いよいよB土建の資金繰りが苦しくなったようです。
他の債権者も動き出しています。
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①の工事はほぼ完了しており、②の工事もかなり進んでいました。
A舗装としても、できるだけB土建に協力してきましたが、
ここに至って、倒産の引き金を引くこともやむなしと判断しました。
A舗装は、甲地方裁判所に申し立て、B土建の、
乙市に対する①の工事代金債権900万円を差押えるとともに、
甲県に対する②の工事代金債権のうち600万円を差押えました。
②は、直前に第三者に債権譲渡されていたため「空振り」でしたが、
①の900万円の差押は無事功を奏し、900万円の回収に成功しました。
5 B土建の倒産
A舗装の差押えが引き金となり、

B土建は倒産し弁護士による任意整理が始まりました。
A舗装としては、残金600万円につき、
すぐにB社長の自宅の抵当権を実行することも検討しましたが、
競売代金は任意で売却するよりも安価となるのが通例であり、
先順位の根抵当権等への配当の後、A舗装にまで配当が回ってくるのは望み薄です。
そこで任意売却の機会を待つこととしました。
6 抵当物件の売却代金より残金全額回収
任意売却の機会はまもなく到来。
翌年の夏にB社長の自宅(土地建物)の任意売却されました。
A舗装としては、任意売却に協力することで、
幸いにも残金の600万円も無事回収もできました。

本件では、A舗装が紛争早期に弁護士に相談し、
手早く交渉して債務弁済及び債務保証の公正証書を作成したこと、
残余の担保価値には不安があったものの抵当権設定登記をしたことが、
債権回収成功へのポイントと言えましょう。