相続人なき財産はどこへ行く?〜(2015年1月1日)元倉

超高齢社会、少子化の現代日本では、
相続人がいない事態はそう珍しくはなくなってきた。
2012年度、相続人なき遺産が最高額を更新した。
相続人なき財産は、国庫に入る。
2012年度は375億円にも上った。
所得税、住民税、固定資産税、消費税等々
税金を搾り取られた挙げ句、
自分のなけなしの財産が死後そっくり国の財布に入る
との運命を喜びに思う国民は、少ないのではあるまいか。
国庫に入った375億円の持ち主たち、
きっとこの運命を知らなかったに違いない。
この国庫行きの運命を避ける確実な方法は、遺言書である。
では、遺言書がなく相続人もいない遺産は国庫に行くしかないのか?
一緒に暮らしてきた、長期間手厚く老後の面倒をみてきたなど
特段の事情がある場合、「特別縁故者」として、
家庭裁判所により相続財産の分与が認められる場合がある。
本件はそんな一例である。
妻と息子・娘の家族総出で引越作業をした。
両家族は、頻繁に食事をし、一緒に銭湯にも通った。
しかし実さんは肺の病を繰り返し、入退院を繰り返した。
作蔵さんは、実さんの入院中、
一人で寂しかろうと、フクさんを家族の団らんに加え、
実さんの見舞いにも一緒に行った。
実さんは、作蔵さんにしか頼めないとフクさんのことを託して、
息を引き取った。15年前のことだった。
夫を亡くして茫然自失のフクさんに代わって、
作蔵さんが葬儀、納骨、法要の一切を執りおこなった。
一人になったフクさんは、
作蔵さんの家族と過ごす時間がますます増えた。
気持ちを紛らわせようと、フクさんを歌舞伎や旅行に連れ出した。
作蔵さんの息子・娘の結婚式、
孫の誕生・成長を祝う家族のイベントにも、
フクさんには祖母のように参加してもらった。
フクさんの体調の異変に気付いたのも作蔵さんである。
胃の調子が変だというフクさんを説得して
検査を受けさせたところ、胃癌が見つかった。
作蔵さんが、入院の準備をし、入院に付き添い、
保証人にもなった。
医師は、フクさんには胃潰瘍と言ったが、
作蔵さんには胃癌であることを伝えた。
作蔵さんは、悩みに悩んだが、
結局最後まで胃癌であることをフクさんに打ち明けられなかったという。
妻と数日おきに見舞いに行き、
心細がっているフクさんの話し相手になり、
身のまわりの世話もした。
2度の手術に付き添い、手術の承諾書にサインし、術後の世話もした。
2度目の手術の後、フクさんの様態が悪化した。
12月31日深夜病院から危篤の報を受け、
元旦の早朝、作蔵さん夫妻は、フクさんの最後を看取った。
フクさんの死後、作蔵さんは、
フクさんの遺体を引き取り、火葬、葬儀等を行った。
アパートの明け渡しを大家から迫られ、
保証人の作蔵さんが遺品を整理し、引き取って保管し、
アパートの明け渡しを済ませた。
遺品の中から、
生前にフクさんが書いた「遺言書」のような手紙が見つかった。
日付も署名もないので、遺言書にはならないが、
そこには作蔵さんに対する
深い感謝の思いがたどたどしい言葉で綴られていた。
作蔵さんは、毎年彼岸には実さんフクさんの墓参りをしているが、
自宅には二人の写真を置き、毎日お茶にご飯、花、線香をあげている。
このような作蔵さんの
長期間に渡る誠意あふれる故人への献身を、
裁判所は評価したのだろう、
遺産から諸経費を差し引いた残額全額の分与が認められた。